エリザベート王妃コンクール
ベルギーのブリュッセルを本拠地とするエリザベート王妃コンクールはヴァイオリニスト、ピアニスト、チェリスト、歌手のための世界有数の国際コンクールです。
ベルギーのエリザベート王妃によって1937年に創設されたこのコンクールは高いレベルの競争と厳しい審査基準で知られています。特徴的なのは「隔離期間」で、ファイナリストたちは最終ラウンドの前に1週間外部との接触を断たれた状態で新作を準備するという伝統があります。
入賞者には賞金だけでなくコンサート出演権も与えられ若い音楽家のキャリアを大きく後押しします。ヴァイオリン、ピアノ、声楽、チェロが毎年交互に行われていて、4年で一巡するサイクルとなっています。
伝説的ヴァイオリニストのダヴィッド・オイストラフやマイケル・グットマン、ピアニストのエミール・ギレルズやウラディーミル・アシュケナージ、ソプラノ歌手のエッダ・モーザーなどが有名受賞者です。また近年ではヴァイオリニストの諏訪内晶子やバイバ・スクリデなど世界的に活躍するアーティストも輩出しています。
プラハの春国際音楽コンクール
チェコ共和国で開催される「プラハの春国際音楽祭」の一環として1946年から毎年開催されています。第二次世界大戦直後のヨーロッパ再建期にチェコスロバキアの文化的アイデンティティを再確立する目的で創設されました。
フルート、クラリネット、トランペットなど様々な部門があり30歳以下の若手音楽家が参加できます。このコンクールの特徴は毎年異なる楽器部門を取り上げるローテーション方式で各楽器に十分な注目が集まるよう配慮されています。
賞金とプラハの春音楽祭での演奏機会を提供する東欧で最も歴史と権威のあるコンクールのひとつです。チェコの音楽文化を尊重し参加者に対してドヴォルザークやヤナーチェクなどチェコの作曲家の作品を必須レパートリーとして課す点も特徴的です。
トランペット奏者のセルゲイ・ナカリャコフやフルート奏者のイリ・ヴァーレクなど多くの著名な音楽家がこのコンクールから輩出されています。東欧をはじめとする世界の若いクラシック音楽家のキャリアアップに果たした役割は大きいといえるでしょう。
ARD国際音楽コンクール
ドイツのミュンヘンで毎年開催されるARD国際音楽コンクールは世界で最も規模が大きく多様性に富んだコンクールのひとつです。ARDは「Arbeitsgemeinschaft der öffentlich-rechtlichen Rundfunkanstalten der Bundesrepublik Deutschland(ドイツ公共放送連盟)」の略でドイツの公共放送局の連合体を指します。
声楽、弦楽四重奏、管楽器など幅広い楽器と分野をカバーしています。1952年に創設されたこのコンクールはドイツの公共放送局ARDによって運営されています。当初は4つの楽器カテゴリーのみでしたが現在では21の異なるカテゴリーを対象としておりそれらがローテーションで実施されています。
このコンクールの特徴としては毎年楽器部門を入れ替えることでより幅広い音楽家の参加を可能にしていることが挙げられるでしょう。特に決勝ラウンドではドイツの作曲家による新作の演奏が課されることが多く現代音楽の普及にも貢献しています。
オーボエ奏者のハインツ・ホリガー、打楽器奏者のペーター・サドロ、ピアニストの内田光子など著名な音楽家を数多く輩出しています。決勝ラウンドはバイエルン放送を通じて全ドイツで放送されるだけでなくヨーロッパ中の放送局にも配信される点も特徴です。
チャイコフスキー・コンクール
ロシアのモスクワで4年ごとに開催されるチャイコフスキー国際コンクールは最も権威のあるクラシック音楽コンクールのひとつです。冷戦期の1958年に創設され当初は西側と共産圏の文化交流の場としての役割も担っていました。
1958年に設立されロシアを代表する作曲家ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーに敬意を表して名付けられました。第1回コンクールはピアノとヴァイオリン部門のみでしたがその後チェロ、声楽、木管楽器、金管楽器と部門が拡大しました。
コンクールにはピアノ、ヴァイオリン、チェロ、声楽の部門がありヴァン・クライバーンやウラディーミル・アシュケナージなど多くの著名な音楽家を輩出してきました。コンクールの審査は非常に厳格で時には第1位を授与しない部門もあるほどです。
伝説的ピアニストのヴァン・クライバーンは冷戦下の第1回大会で優勝し国際的な名声を得ました。アメリカ人であるクライバーンがモスクワで圧倒的な支持を受けて優勝したことは冷戦時代の東西文化交流の象徴的な出来事となりました。
その他ヴァイオリニストのヴィクトル・トレチャコフ、ギドン・クレーメル、ピアニストのデニス・マツーエフ、ダニール・トリフォノフ、チェリストのマリオ・ブルネッロなどが受賞しています。日本からも江口玲(ピアノ)や諏訪内晶子(ヴァイオリン)などが入賞を果たしています。
リーズ国際ピアノコンクール
1961年に創設されたこのコンクールはイギリスのリーズで開催されピアノ演奏のみに焦点を当てたコンクールです。設立者のファニー・ウォーターマンとマリオン・ハロウェルはイギリスにも世界レベルのピアノコンクールを作りたいという強い願いからこのコンクールを設立しました。
口語では単純に「リーズ」と呼ばれ世界で最も権威のあるピアノ・コンクールのひとつです。コンクールは3年ごとに開催され世界中から若いピアニストが集まります。参加資格は16歳から30歳までで毎回約80か国から300人以上の応募があります。
コンクールは5つの段階(予選、第1ラウンド、第2ラウンド、準決勝、決勝)で構成され各段階で異なるレパートリーが要求されます。特に決勝ではリーズ・タウンホールでリーズ・フィルハーモニー管弦楽団との協演が行われます。
入賞者には賞金、レコーディング契約、多数のコンサート出演権が授与され新進の才能にとって重要な足がかりとなっています。過去の受賞者にはラドゥ・ルプー、マレー・ペラヒアなどがおりその他にもアンドラーシュ・シフ、内田光子、アレクセイ・ヴォロディンなど世界的に活躍するピアニストを多数輩出しています。
ファニー・ウォーターマン女史はこのコンクールの設立と普及に尽力した重要人物です。彼女は2020年に95歳で亡くなるまでコンクールの芸術監督として関わり続け若いピアニストの才能発掘と育成に生涯をささげました。
ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール
第1回チャイコフスキー・コンクールで優勝したことで有名なアメリカのピアニストヴァン・クライバーンにちなんで名づけられたコンクールです。クライバーンの1958年のモスクワでの優勝は冷戦時代の東西文化交流の象徴的な出来事となりました。
テキサス州フォートワースで4年ごとに開催され1962年に創設された権威のあるピアノ・コンクールのひとつです。参加資格は18歳から30歳までの若手ピアニストで毎回約40カ国から300人以上の応募があります。
コンクールは4つの段階(予選、準々決勝、準決勝、決勝)で構成され各段階で異なるレパートリーが要求されます。決勝ラウンドでは参加者はフォートワース交響楽団との協演で2つの協奏曲を演奏します。非常に幅広いレパートリーを要求しアメリカの作曲家の作品も必ず含まれるのが特徴です。
入賞者には賞金、コンサート・マネージメント・サービス、大規模なコンサート・ツアーなどが授与されキャリア形成の面で最もやりがいのあるコンクールのひとつとなっています。特に金メダリスト(第1位入賞者)には3年間にわたる国際ツアーの管理、メディア露出の機会、レコーディング・プロジェクトなど包括的なキャリア開発サポートが提供されます。
著名な受賞者にはラドゥ・ルプー、クリスティーナ・オルティス、ジョン・ナカマツなどがいます。特に2009年のコンクールで優勝した若冠19歳の日本人ピアニスト辻井伸行の活躍は大きな話題となりました。視覚障害を持ちながらの優勝は多くの人々に感動を与えクラシック音楽の枠を超えた注目を集めました。
メニューイン・コンクール
伝説的ヴァイオリニストである、ユーディ・メニューインによって1983年に創設されたコンクール。
彼は単なる技術的な競争ではなく若い音楽家の全人的な成長を促すプラットフォームとしてこのコンクールを構想しました。
「ヴァイオリンのオリンピック」などと呼ばれているこの大会はそのレベルの高さと国際的な名声で知られています。最初のコンクールはイギリスのフォークストンで開催されましたが現在では2年に一度世界各地の都市を持ち回る形式となっています。
このコンクールは22歳以下の若手ヴァイオリニストのみに焦点を当てたコンクールで特徴の一つはメニューイン自身が重視した音楽性と芸術的解釈が高く評価される点です。単なる技術的な完成度だけでなく音楽的な深みや個性的な表現力も重要な審査基準となっています。
メニューイン・コンクールは他にもマスタークラスや若手音楽家が著名なアーティストと共演する機会を提供するなど育成環境にも定評があります。著名な受賞者にはタスミン・リトル、ニコライ・ズナイダー、レイ・チェンなどがいます。また日本からは五嶋みどりや諏訪内晶子も入賞し国際的なキャリアへの足がかりとしました。
モントリオール国際音楽コンクール
カナダのモントリオールで毎年開催され声楽、ヴァイオリン、ピアノを交互に競います。2002年に創設されその高い水準と優れた組織で瞬く間に評判となりました。このコンクールはカナダのクラシック音楽界の発展と国際的なプレゼンスの向上を目的として設立されました。
このコンクールは国際的な若い才能の発掘と支援を目的としており賞金だけでなくコンサートの機会やキャリア開発プログラムも提供しています。参加資格はピアノとヴァイオリンは30歳以下、声楽は33歳以下となっており世界中から毎年約300人の応募があります。
コンクールは3つのラウンドで構成され各ラウンドでは異なるレパートリーの演奏が求められます。特に決勝ラウンドではモントリオール交響楽団との協演が行われます。このコンクールの特徴の一つはカナダの作曲家の作品が必須レパートリーに含まれる点でこれによりカナダの音楽文化の普及にも貢献しています。
ソプラノ歌手のミーシャ・ブリューガーゴスマンやピアニストのセルヒー・サロフなどが受賞し国際的な評価を得ています。3つの分野にまたがる才能の育成に重点を置いていることがこのコンクールの特徴となっています。
シドニー国際ピアノコンクール
1977年に創設された南半球有数のピアノコンクールです。オーストラリアのクラシック音楽文化を国際的に発信する目的で設立され初代アーティスティック・ディレクターであるウォーレン・トムソンの情熱とビジョンにより短期間で国際的な評価を得ることに成功しました。
オーストラリアのシドニーで4年ごとに開催され世界的な若手ピアニストが集まります。参加資格は18歳から32歳までで世界中から約200人の応募があります。コンクールは3つの主要なラウンド(予選、準決勝、決勝)で構成されます。
総合的なレパートリーが要求され複数のラウンドで競技者の多才さと芸術性が試されることで知られています。特徴的なのはオーストラリアの作曲家の作品が必須レパートリーに含まれる点でこれによりオーストラリアの音楽文化の普及にも貢献しています。
入賞者には賞金、レコーディング契約、国際的なコンサート契約が与えられます。過去の受賞者にはアヴァン・ユーやアレクサンダー・ガヴリリュクなど国際的なキャリアを築いた著名なピアニストがいます。このコンクールはオーストラリアの音楽シーンにおける重要な文化イベントとなっています。
スポンサーリンク

番外編
日本クラシック音楽コンクール
日本の民主的な開かれた音楽コンクール
やはりコンクールについての回ということでこちらも追記で書いていきたいと思います。
日本のクラシックコンクールといえば浜松国際ピアノコンクールなどが有名かもしれませんがあえてユニークなこちらについて。
日本クラシック音楽コンクールは一般社団法人日本クラシック音楽協会が主催する音楽コンクールで、ピアノ、バイオリン、声楽などの色々な部門があります。
こちらのこのコンクールは上記で述べてきたコンクールとは風合いが少し異なり、部門も包括的であるし、特に若手音楽家の育成を目的としていて毎年多くの参加者が集まります。
それだけでなく、なんと近年では小学校低学年部門や幼稚園児向けの部門まであるようです。
コンクールは予選、本選、全国大会の3段階に分かれており、各段階での評価基準が設けられています。
自由曲制を採用しており、参加者は自分の得意な曲を選んで演奏することができるのもユニークな点です。また、コンクールは全国各地で開催され居住地に関係なく参加会場を選ぶことができるため、幅広い地域からの参加者が集まれる点も素晴らしい特徴だと思います。
このように、審査は厳正なのに参加基準が年齢的にも地理的にもとにかく広く取ってくれているのがこのコンクールの特徴といえるかと思います。
日本クラシック音楽コンクールの予選通過率
予選通過率は年によって異なりますが、一般的には約30%から50%の範囲で推移しています。具体的な数値は、参加者のレベルや応募者数によっても変動します。
予選の合格基準は年によって異なることがあり過去のデータによると、予選を通過するためには70点以上の得点が必要とされることが一般的なようです。
比較のため述べると、一般にこうしたクラシックのコンクールは1割から3割ほどが予選通過ラインといえるかと思います。
具体的な例をあげるなら、リスト国際ピアノコンクールやショパン国際ピアノコンクールの予選通過率は、それぞれ10ー20%、20-30%などといわれているのでそれに比べればかなり門戸が広いといえるでしょう。
ということで、他の有名なコンクールとの比較するならば日本クラシック音楽コンクールは、特に若手音楽家にとっての登竜門としての役割を果たしているといえます。
全国大会に進出することができれば、さらなるキャリアのステップアップにつながることが多いといわれています。
ちなみにyoutubeをこのコンクールで検索すると色々な楽器での才能ある若手音楽家たちの演奏が沢山出てきて面白いのでお勧めである。
選曲なども含めその年齢で凄い良いセンスだな、みたいなのもあり、普通のコンクールより正直見ていて楽しかったりする。。
スポンサーリンク
