ムーラン・ド・ラ・ギャレットとルノワール

ルノワールの “Bal du moulin de la Galette “のコンセプト

ルノワールの「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」は、印象派を代表する傑作のひとつです。

1876年に完成したこの作品はパリのモンマルトル地区にある人気のダンスガーデン、ムーラン・ド・ラ・ギャレットでの典型的な日曜日の午後を描いたものである。

そこには、おしゃべりをしたり、ダンスをしたり、一日を楽しむ人々の姿が描かれています。

ルノワールの緩やかな筆致と自然光の利用は印象派の典型的な手法であり、このシーンに動きと活力を与えています。

19世紀末のパリで、労働者階級の人々の喜びと社会的交流のありふれた瞬間をとらえることにも成功している。

この絵には労働時間の短縮により都市の労働者階級が新たに手に入れた余暇を祝福している側面があるのです。

絵に描かれている人物の多くは、ムーラン・ド・ラ・ギャレットに出入りしていたルノワールの友人・知人である。

この絵には2つのバージョンが存在し、大きなバージョンはパリのオルセー美術館に、小さなバージョンは個人のコレクションに飾られている。

そしてそれはこれまでに販売された絵画の中で最も高価なものの1つある。小型版も1990年に日本人の製紙会社の社長の斉藤氏に7800万ドル以上で落札された。

ちなみに彼は自分が亡くなったら棺桶に入れてもらうという発言をして日本を含む世界中から批難を浴びるが、作品への愛情表現で言ったと弁明をしている。

こののちにスイスの個人に売却されたと言われている。

1841年生まれのピエール＝オーギュスト・ルノワールは、19世紀後半の先鋭的な芸術である印象派運動の中心人物である。

光と色彩の自然な相互作用をとらえることに焦点を当て、アトリエで描くのではなく、しばしば「en plein air」、つまり生活の中から直接描くことで、当時の芸術界では革命的な信憑性と躍動感をもたらした。

10代の頃に工場で磁器の絵付け職人として働き、正確さと色彩への愛情を学んだが、すぐに美術を学ぶ道に進みエコール・デ・ボザールに入学し、スイス人画家マルク・ガブリエル・シャルル・グレールのアトリエに通った。

その後長年にわたり経済的に苦境に立たされながらも芸術への情熱を失わず友人や恋人、家族が親密な家庭生活を営んでいる様子や、モンマルトルでの日曜日の午後のダンスを描いた有名なこの「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」のようなレジャーを楽しんでいる様子など、日常生活の情景を描くことが多かった。

ルノワールの作品の特徴はその輝くような色彩、きらめく光の効果、柔らかく羽毛のような筆致、そして被写体に対する深い感受性にあり、それらが相まって温かさと楽観性を生み出しているといえるだろう。

キャリアの中で重要な転機となったのは、1881年のイタリア旅行でルネサンス美術に深い影響を受けたことである。

この時期ルノワールは「アングル期」と呼ばれる劇的な作風の変化を遂げ、より明確な形を描き、線に注目するようになった。そしてこののちにまた画風は変貌を遂げ有名な女性の裸体画などを制作する時期に入るのである。

彼は関節リウマチのために手が変形し動きが制限されるという肉体的苦痛を受けながらも、死ぬまで手首に筆を縛り付けて絵を描き続けた。

また絵画だけにとどまらず彫刻の領域にも及び、カタルーニャの芸術家リチャード・グイノと共同でブロンズ彫刻を制作し高い評価を得たほどである。

しばしばソフトで官能的な美しさを特徴とする女性の描写で批判されてきたが、彼はまたたくましい洗濯婦や自立したスタイリッシュなパリジェンヌのような、当時の伝統的な性別役割分担に挑戦する女性の被写体の強さと個性をも捉えていた。

彼の作品は世界中の美術館に所蔵され、パブロ・ピカソをはじめとする多くの後進の芸術家の作品にもその影響は見られる。

私生活では3人の息子を持つ大家族であった。そのうちの1人、ジャン・ルノワールは有名な映画監督となり、父親の作品が彼の映画製作に大きな影響を与えたと見なしている。

批判、貧困、また肉体的苦難に直面しながらも、ルノワールはアートへの情熱を失わず「痛みは過ぎ去るが、美は残る」と語った。